秘密の地図を描こう

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 その頃、キラは意外な人物の訪問を受けていた。
「お忙しいのではありませんか?」
 こう問いかけながら、紅茶を差し出す。
「君の様子を見に来るのも重要な仕事だよ」
 自分にとっては楽しみでもあるし、とギルバートは微笑む。
「それに、君に頼みたいこともあったしね」
 言葉とともに彼は一枚のデーターカードを差し出してきた。
「新型の設計図なんだが……これのOSを君に頼みたい」
 その言葉に、キラの体がこわばる。
「キラ君?」
「また、戦争になるのですか?」
 おそるおそる、そう問いかけた。
「心配いらない。今のところはまだ何とか踏みとどまっているよ」
 もっとも、いつまであちらが我慢できるか。それだけが問題だろうね、と彼は続ける。
「君にごまかしを告げても意味はないだろう」
 そう言ってくれるのは彼の優しさなのだろうか。だが、事実を事実として教えてくれることはいやではない。
「僕たちがしたことは、無駄だったのでしょうか」
 大切なものを失って、それでも傷つきながら戦ってきたのに、とキラは心の中だけで呟く。
「そんなことはないよ」
 言葉とともにギルバートがキラの頭に手を置いた。
「人々は戦いのない日々を経験した。それは大きいよ」
 戦争と平和。どちらがよいかを実体験しているから、と彼は続ける。
「これも、実戦で使わずにすめばそれはそれでいい」
 むしろ、その方がいいのだ……と彼は言った。
「ただ、こういう地位にいるとね。あれこれと先手を打っておきたくなるものなのだよ」
 困ったものだね、と彼は苦笑を浮かべる。
「……もちろん、無理にとは言わない。ただ、君が一番信頼できるからね」
 うかつな人間に任せて情報を流出されるわけにはいかない。彼はさらに言葉を重ねた。それがどうしてなのか、キラにもわかっている。
「……これは、レイに?」
 心は決まりかけていた。それでも確認しておきたい。
「決めていないよ。あの子がふさわしいと思えば任せるかもしれないが、そうでないと言われたら、よりふさわしい人物に任せる予定だよ」
 何故、と彼は聞き返してくる。
「どこまで手出しをすべきか、と思っただけです」
 レイであれば、全部、手を出してしまいそうなので……と続けた。
「君たちは仲がいいね」
 苦笑とともに彼はそう言ってくる。
「……そうですか?」
 機会があればディアッカ達の機体のOSも手を出したいと思うが、本人達から『必要がない』と言われている。もっとも、彼らの場合それでも安心してみていられるというのは事実だ。
 しかし、レイ達は違う。
 彼らは実力はあると思うが、自分からすればまだゲームで遊んでいるようにしか見えない。
「まぁ、いいことだと思うよ。少し妬けるがね」
 仲間はずれにされているようで、と彼は笑う。
「そう、ですか?」
 そんなつもりはないが、とキラは呟く。
「冗談だよ」
 でも、たまには顔を出しなさい……と彼は続ける。
「ラウも寂しそうにしているからね」
「……レイに会えなくて、ですか?」
「君だと思うよ」
 まさか、と思ってしまうのは、ラウのあのときの言葉を今でも忘れていないからだ。
「彼は素直ではないからね」
 そういう問題なのだろうか。何というか、イメージが違いすぎる、と思ってしまう。
「……僕もまた、あの人と話をしたいです」
 これは本音だから、とキラは素直に口にする。
「君はいい子だね」
 微笑みながらギルバートはそう言い返してきた。

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最遊釈厄伝